第十章 大貧民 

 

牧場は賑わっていた。子供から大人まで、みんなが楽しめるように、変なアスレチックや乗馬がある。

三人は最初乗馬をやろうかなあと思ったが、料金がクソ高いのでやめた。また、アスレチックをやろうかなあと思ったが、ガキばっかりなのでやめた。

先に述べた変なウエスタンの店の前で、三人がどうしとうか迷っていると、突然!誰かが叫び出した。

「ウォォアァーー・・・・。」

クマちゃんである。彼は耳をふさいで苦しんでいる。

「いったいどうしたんだ、クマちゃん!。」

「ウッウッ・・・・こ・・・・この音楽・・・。」

その時オメガは気付いた。この牧場には、さっきから変なウエスタン音楽が流れていた事を。それも、よりによってその音楽は、変なウエスタンの店から流れていたのだ!

人間には、+(プラス)の音楽と -(マイナス)の音楽があると言う。クマちゃんの場合、+の音楽はロックで、- の音楽はこのウエスタン音楽だったようだ。

まるで一種の超音波のように、ウエスタン音楽がクマちゃんを苦しめる。

「早くなんとかしなければ・・・・・。」

ウエスタン音楽に影響されないエイジが言う。その時だった!まさに死中に活あり!クマちゃんが言う。

「そ・・・そう言えば・・・オメガ、トランプ持って来てたよね・・・。」

「それだ!。」

三人はすぐにその場を離れると、トランプを持って牧場のはるか遠く(実際はウエスタンの店から50メートルしか離れてない)にあるベンチへと向かった。ここなら、なんとか音楽は気にならない。

三人はベンチに座ると、早速トランプを出した。

「何やる?。」

「何でもいい。」

こういう時はなかなか決まらないものである。

結局、まずババ抜きをやることにした。これはそれほどエキサイトせず、二試合やって二回ともクマちゃんが勝った。

問題はその次の『大貧民』だった・・・・・・・・。

 

「よーし、じゃあ次に大貧民やろうぜ!。」

三人は改めて大貧民をやることにした。

オメガがまずカードを配る。それを受け取ると、各自自分の作戦を練るのであった。

「はい、まず”3”ね。」

「そんじゃあ”4”。」

「いきなり”10”。」

第一試合、第二試合は無事に行われた。二回連続でオメガが勝ったので、『打倒オメガ』の雰囲気が漂う。調子にのったオメガは、カードを配りながら次のような事を言った。

「そう言えば、オレ、前に弟と二人で大貧民やったぜ。その時は革命の連発だったよ!。」

革命・・・・・・それは、同じ数字のカードを四枚出すと、カードの強さが入れ変わるという幻の技である。

この時、オメガの話に敏感に反応したのはエイジだった。が、外見には表さず、何かを悟ったように与えられたカードを見つめていた。

第三試合が始まった。いつもの通り、小さい数から先に出されていく。と、エイジが突然大きい数字を出した。

「おい、いきなりでかいの出すなよー。」

クマちゃんとオメガの反感を買いながらも、エイジは次々と大きな数を出していく。だが、エイジは大貧民であったため、大富豪のオメガのカードには負けてしまった。エイジが大きな数を出すと、さらに大きな数をオメガが出す。結局、またもやオメガが先にあがった。

その後、急にエイジはカードを出さなくなった。最初の方で、あまりにも大きなカードを出しすぎたためであろう。クマちゃんがどんどんカードを出していき、結局、またもやエイジは大貧民に終わった。

「おい、お前何やってんの!?。」

二人に聞かれてエイジが手の内を見せた。なんと!その中に”4”が四枚あるではないか!

「なんで革命やらなかったんだよ!。」

せっかくの革命を、手許に残して自爆したエイジ。この時、オメガはエイジを理解できなかった。

 

写真6:草原でトランプをする男たち

風が吹く緑の草原。遠くに馬の鳴き声を聞きながら、トランプをする三人の男。よく見ると、実際にトランプをやっているのは、オメガだけである。他の二人はいったいどこを見ているのだろうか・・・?。

続いて第四試合が始まった。と、またもエイジが大きな数字を出していく。オメガが言った。

「フッ、気にするな。こいつはこいつなりに考えているんだろう。」

するとエイジが言う。

「なんだよー、それじゃあ、まるでオレがバカみてぇじゃねえか!。」

そんな会話をしながらも、エイジは次々と大きな数を出していく。それまで見逃していたオメガも急に嫌な予感がし出した。

「ここらで止めておこう!。」

エイジの出した”1”に、オメガが”2”を出す。オメガは、これで流れを変えようとでも思ったのだろう。だが、エイジにとって、これは絶望的なショックだった。実はこの時、エイジは革命計画があと一歩で成功するというところまで来ていたらしい。ところが、この何気ないオメガの一枚によって、その野望が崩れ去ったのである。

結局、本当に流れが変わってしまい、オメガはまたもや大富豪で終わった。しかし、その後が少し違った。油断したクマちゃんは突然(今頃になって)エイジの革命を喰らい、大貧民に転落してしまったのだ。

オメガは思った。こいつ、今一革命がわかってねえ、と。だが、それと同時に、エイジが幻の革命を完成させつつあることも実感した。

さて、第五試合が始まった。この時、オメガは手許に”3”が三枚あるのに気付いた。

「何か崩すのもったいないなあ。」

そう思ったオメガは、大貧民とのカードの交換に、”3”ではなく”4”を渡した。これが後にオメガを助ける事になる。

不思議な事に、またもやエイジは革命のできる状態にあったらしい。しかも、今度はやっと革命の使い方を理解したのか(いわゆる動物の『学習』というヤツか)、ゲームの中盤で見事革命をやってのけた。

「な、なにーっ!。」

クマちゃんとオメガが驚いたのも無理はない。

だが、オメガには”3”が三枚残っていた。革命のおかげで”3”が一番強いカードとなっている。これを駆使して、オメガは見事五度目の大富豪となった。

「オメガ、革命やられたわりには強いなあ。」

エイジはそんなことを言いつつ、ダメージを受けたクマちゃんに勝ち、平民の座をキープした。

さて、いよいよ第六試合となった。手許のカードを見たオメガはいきなり言った。

「この勝負もらったあ!。」

なんと、手持ちのカードの4分の3が”11”以上だったのだ。さらに、大富豪というおいしい立場でもあって、クマちゃんからジョーカー(一番強い)をもらい、ほとんど無敵の状態だった。

だが・・・・・・・・・・・今度もまた、なぜかエイジに革命の用意があった。どうして、彼にばかり同じ数字が四枚集まるのだろう。しかし、そんな事はどうでもよかった。エイジはオメガと比べると正反対で、そのカードのほとんどが小さい数だった。だからであろうか。試合開始後間もない頃、突然、

「ジャーーーン、革命!。」

これにはクマちゃんもオメガも驚いた。しかし、オメガのショックの方が大きかった。

今、手許にあるカードで一番小さい数は”7”。負けは確実だった。まさに絶望の革命!ディスペレイト・レボリューション!おごれる者は久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。砂浜に作った城も、いつかは波に崩される。太陽王と崇められたオメガも、ついに大貧民の革命によって、絶望の淵に落とされたのだった。

オメガの負けは決まったが、悲しいことにエイジは大富豪にはなれなかった。というのも、クマちゃんが小さい数を一番多く持っていたからだ。しかし、それはエイジも心得ていたらしい。ようするにオメガとクマちゃんのどちらを勝たせるか、ということだったのだろう。

この後、第七試合では、なんとエイジが大富豪になってしまい、オメガは大貧民で終わるという悲しい結末となる。

こうして、大貧民は終わった。

牧場の西の空に夕日が現れた。そろそろ夕食の時間だ。三人はトランプをしまうと、テントを張った場所へと戻っていく。ウエスタン音楽はもう流れていなかった・・・・・・。

 

いつものように食事の用意が始まった。今日のメニューは、悲しいかな、お茶漬けのみだった。しかし、量はたっぷり・・・・・・でもなかったが、とにかくメチャクチャうまかった。

三人がお茶漬けで我慢できたのは、実はこの後、変なウエスタンの店で、コーヒーでも飲もうという計画があったからだ。

「ああ。うめぇー。」

あまりのうまさに泣きそうになる程だった。まあ、それはいいとして、食い終わった三人は急いで片付けをし、寒いので暖かい格好をしてウエスタンの店へ向かった。

テント場から牧場へ行くには、長さ3メートル程の橋を渡らねばならない。その橋の下は池になっていて、フラミンゴとガチョウが住んでいた。が、そこのガチョウの鳴き声がメチャクチャうるさくて、周囲の反感を買っていた。野辺山で理想の人に会えなかったクマちゃんは、そのガチョウの中の一匹を「素朴だ」と言って惚れていたが、本気だったのかどうかはわからない。とにかく、三人はそのガチョウたちのいる池を渡って牧場に入った。

ところが、いざウエスタンの店に着いてみると、

「ガーーーン、やってねぇ・・・・。」

そう、既に閉店だったのだ。三人はその他の場所も探してみたが、あったかい飲み物を飲める所はなかった。仕方なく自動販売機で冷たい飲み物を買って、三人はテントに戻る。

さて、やる事がないと、くだらない話を始めるのが自然の法則である。今日の夜は、エイジの過去で盛り上がった。だが、それはここに記すとまずいらしいのでやめる。

それにしても飽きもせず話し合う三人。結局、三時間ぐらい話していたようだ。ようやく話が終わると、三人は今度は急に眠りたくなった。

「それじゃあ寝よう。」

クマちゃんがそう言って、三人は寝床に着く。が・・・・・・・

「いてっ。」

「なんだこりゃっ。」

なんとオメガとクマちゃんの寝床の下に、木の根っこのような物があるではないか。クマちゃんのは腰の辺りで出っ張っていて、オメガのは背骨に対して斜めに横切っている。エイジはどうなのだろう、と思い、二人はエイジを呼んだ。

「エイジ。」

が、エイジはもう眠ってしまったようだ。話し合っていた時から三分も経っていないのに・・・・・。

試しにオメガは言った。

「エイジ、三秒以内に返事をしなかったら、さっきの話をみんなにバラす。・・・1・・・2・・・・・3!。」

だが、それでもエイジは起きなかった。仕方なく二人は我慢して寝ることにする・・・・・・・・

 

・・・・・時は午前二時。オメガはあまりの寒さで眠れなかった。シュラフに入っているクマちゃんとエイジはTシャツで寝ているというのに・・・・・。オメガは持って来たタオルやTシャツを、全て身にまとったがダメだった。前の二日間に、オメガは暖かい寝方を考え出していたのだが、木の根っこが邪魔になってそれができない。

この後、オメガは寒さのため、一時間ごとに起き、

「早く朝になってくれー。」

と念じつつ、悲惨な夜を過ごしたのだった。

 

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「飛び散ったポカリ」

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