川で復活したはずなのに、オメガの体力はもう限界だった。とにかく疲れて疲れてしょうがない。途中、ジュースタイムをとった時も、他の二人と会話を交わす元気がなかった。。そんなわけで、テントを張る場所がなかなか見つからないことは、オメガにとって泣きそうにつらい事だった。
しばらく行くと、神社があった。町中にひっそりと建っていて、人の気配がない。三人はここでテントを張っていいものかと思案した。と、近くに一人のおばさんが通りかかった。エイジが聞く。
「すみません。ここにテントを張っても大丈夫ですか。」
おばさんは言った。
「ここは役員さんの土地だから、役員さんに聞いてみないとわからんべ。」
そこで三人は役員さんに会いに行こうとしたのだが、途中で見かけた地図を見ると、近くに公園があるのがわかった。もう一度おばさんの所に戻って聞いてみると、
「ああ、あっちの坂をずーーっと登っていくと、広い公園があるよ。見晴らしがよくていい所だよ。」
と教えてくれた。坂を登っていくというのが気になったが、三人は力の限り公園を目指すことにした。
その公園は、町の中にそびえ立っている丘の頂上にあった。何とかそこまで登った三人は、その広さと美しさに感動した。
「テント張っていいかどうか、管理人に聞いてみよう。」
自転車を止めると、三人は管理人室らしいところへ歩いていった。
ところが、いくらノックしても返事がない。まわりの景色はしだいに暗くなっていく。
「しょうがない。勝手に張っちゃおう。」
そう決断して三人は場所を探し始めた。奥の方に行くと、ベンチがたくさん並べてあるところがあり、その近くにテントを張れるスペースがあった。
「ここがいいね。」
クマちゃんが言う。
と、その時、何者かの気配を三人は感じた。どうやらベンチに誰かがいるようである。
三人は恐る恐る近づいた・・・・・・。
そこには一人の男が寝ていた。酔っぱらっているのかと思ったが、側にコーラの缶が置いてあったので、ちょっと逆を疲れた。が、服装を見ると、いかにも管理人らしい姿だったので、エイジは恐る恐る尋ねる。
「すみません。ここにテント張ってもいいですか。」
男は目覚めた。
「あ〜?」
あくびだかなんだかわからないような声を発して、男は三人を見た。
「ここに、テントを張ろうと思ってるんですけど・・・・。」
男は寝たまま答えた。
「う〜ん。あっちの入り口の方にある、砂場の方ならいいんじゃねえか。」
「あっちの砂場の方ですか。」
「うん。」
男は伸びをして起きあがった。一見、汚い格好をしていたが、何か人生を悟っているようなおじさんだった。
「ありがとうございました。」
三人は立ち去ると、言われた砂場にやってきた。
「それじゃあテントを張りましょう。」
クマちゃんとオメガはテントを張り始める。エイジは食事の用意を始めた。
この時間だからだろうか。公園には三人以外に人はいなかった。そのおかげで、三人は人目を気にせずにキャンプ活動をすることができた。
と、しばらくして、さっきのおじさんがやってくる。おじさんはエイジが食事の用意をするのを、不思議そうに眺めていた。
「このメシは、どっかで買ってきたんか?。」
「はい、そうです。」
「ほう、便利なものがあるなあ、ハッハッハッ。」
おじさんは三人に陽気に話しかけてきた。公園でテントを張るやつなど、珍しいので無理もない。
でも、食事の用意をしているのを真剣に見ている姿は、子供みたいで好感がもてた。
しばらくすると、突然おじさんが言った。
「おっ、黒が来たぞ。」
おじさんが指さす方向を見ると、小さな黒ネコがこちらの様子をうかがっているのが見えた。よせばいいのに、オメガは黒ネコの方に静かに近寄っていく。黒ネコは本当にまだ子供で、
「ミャー。」
という小さな泣き声がとてもかわいかった。
オメガはテレパシーで意思の伝達をはかったがダメだった。すると、何を思ったのか、オメガは自転車の方に戻り、カロリーメイトを取り出すと、再びネコの方にやってくる。
「ほら食え。」
オメガは、カロリーメイト<フルーツ味>を細かく切って黒ネコにあげた。黒ネコは飛びついたが、しばらくすると捨てた。
「てめぇー、カロリーメイトは高いんだぞっ」
オメガは怒ってカロリーメイトをもう一度投げたが、黒ネコは今度は見向きもしなかった。
「向こうでカレーを作ってるから、食いたかったら来い。」
そういって結局、オメガはみんなの方へ戻っていった。
食事の用意は進んでいた。今日はエイジが火を扱っていたが、実に見事な腕前だ。
「へへっ、大したもんだ。」
とおじさんも言っていた。
あんまり長い間おじさんがいるので、オメガとクマちゃんは、
「このおっさん。もしかしたら一緒にメシを食いたいのかもしれない。」
と考えて心配になった。しかし食事ができ上がると、おじさんは、
「よし。そんじゃあオレも、メシでもくらわぁーら。」
と意味不明の言葉を残して去っていった。
さらばおじさん。あなたのことは忘れない・・・・・・・・・・・。
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カレーライスとあさげ。それが今晩のメニューだった。疲れていたのでとてもうまい。特にあさげの味は忘れられない。
三人が食べ終わって後片づけを始めた頃、時々空が光ることがあった。
「なんだろう。雷かな。」
クマちゃんが言う。だが、それにしては音がしない。
「いや、あれは星の光だろう。」
オメガが言う。と、すかさずエイジが、
「こいつバカじゃねぇーの。」
と言った。しかしその後が悪かった。
「あれはUFOの光だー!。」
沈黙。オメガは旅行記に絶対これを書こうと決めた。
その光の正体は、しばらくして明らかになった。向こうの方で花火が上がったからだ。
「おっ花火だ!もっと近くにいこうぜ!。」
三人は公園の奥の方へ歩いていく。
「おおーーっ。」
そこは非常に見晴らしのいい所だった。丘の頂上なので町の夜景が美しい。しかし、そんな事はエイジとオメガにはどうでもいいことだった。とにかく次の花火が上がるのを期待する。
だが、それから十分経っても花火は上がらない。しびれを切らしたエイジは、オメガに言った。
「オメガ、面白い遊びを考えた。やろうぜ!その名も『必殺コンバットゲーム』!。」
あぜんとしているオメガをよそに、エイジは続ける。
「この暗闇の中を二人が散らばって、気付かれずに背後をとった方が勝ち!。」
しかしオメガはやらなかった。一つはエイジを馬鹿にしていたからであったが、実は暗闇がちょっと恐かったからでもあった。
コンバットゲームの野望をくじかれたエイジが、また変なことを言う。
「クマちゃんたち、しょん便する時、ぼうこうが痛くならなかった?。」
またバカなこと言ってるぜ、と思いつつオメガが答える。
「いや、別に・・・・。」
するとエイジが解説し始めた。
「なんか自転車に乗ってて圧迫されたみたいで、しょん便すると痛えんだよーっ。」
オメガはあきれて言う。
「おめぇ、UFOだとかアホなことばっかり言ってるからじゃねぇの?。」
すると、どこでどうつながったのか、エイジがまたもやわけのわからん事を言い出した。
「そうなんだよ。オレは宇宙人に、知らない間にぼうこうを鉄に変えられたんだよ。」
そういう二人についていけないクマちゃんは、仕方がないから夜景の写真を撮っていた。
その後、三十分ほど待っても花火が上がらないので、三人はテントの方へ戻った。
星空の下で、三人はテントにも入らずに話し合っていた。今日の朝からここに来るまでの話で始まったのだが、ふと、あの甲府の女の人の話が出た。
「あの人なかなかきれいだったよね。」
クマちゃんが言う。オメガはそれを聞いて非常にうれしく思った。そして言う。
「やっぱり。!?おれもそう思ったんだぜ。でも二人に反対されると思って言わなかったんだよ。」
するとエイジが言った。
「何言ってんだよー。クマちゃんなんて、いきなり見てすぐに『エイジ、あの人なかなか美人だね』って言ってたぜー。」
そうだったのか、とオメガは思った。まるで自分の恋人が誉められたような気がした。
と、クマちゃんが言った。
「でも見てすぐに、オメガだーって思ったよー。だって、昨日言ってた理想のタイプにピッタリだったじゃん。」
「なあー。」
エイジも言う。オメガはますますうれしくなった。オレの目に狂いはなかった。やはり彼女が自分の理想だったのだ、と。オメガは何かがフッきれたような気がした。かえってこのように言われると、ますますあの女の人に会いたくなる。
「オレは来年もう一度あそこへ行く!。」
さて、その後も会話は続いた。エイジの過去、クマちゃんの過去。そして、この夜の最大の話題、オメガの過去へと話が移る。特に今まで明かされなかったオメガの過去は、二人の興味を引いたらしかった。
会話が下火になり始めた頃、
「ヒューーーッ、パンパンパン!。」
と今頃になって花火が上がった。エイジが言う。
「何だよー、予算がないんじゃねぇの。」
「ハハハ、ひでぇー。」
三人はさんざん花火をけなした。その後も十分おきぐらいに花火が上がったが、どれも変化がなく、まさに予算を感じさせるものがあった。
ところで、この公園は決まった時間になると電灯がつく、と例のおじさんは言っていた。だが、九時になってもまだ電灯がつかない。
「やられた・・・・。」
と三人は思った。暗闇の中を、懐中電灯だけで進まなくてはならないとは・・・・・・。
町を見下ろす丘の上で、三人の旅人は眠りについた。
花火によって起こされた星たちが、三人のテントに暖かい光を投げかけていた。・・・・・・。