第七章 星空の下で 

 

川で復活したはずなのに、オメガの体力はもう限界だった。とにかく疲れて疲れてしょうがない。途中、ジュースタイムをとった時も、他の二人と会話を交わす元気がなかった。。そんなわけで、テントを張る場所がなかなか見つからないことは、オメガにとって泣きそうにつらい事だった。

しばらく行くと、神社があった。町中にひっそりと建っていて、人の気配がない。三人はここでテントを張っていいものかと思案した。と、近くに一人のおばさんが通りかかった。エイジが聞く。

「すみません。ここにテントを張っても大丈夫ですか。」

おばさんは言った。

「ここは役員さんの土地だから、役員さんに聞いてみないとわからんべ。」

そこで三人は役員さんに会いに行こうとしたのだが、途中で見かけた地図を見ると、近くに公園があるのがわかった。もう一度おばさんの所に戻って聞いてみると、

「ああ、あっちの坂をずーーっと登っていくと、広い公園があるよ。見晴らしがよくていい所だよ。」

と教えてくれた。坂を登っていくというのが気になったが、三人は力の限り公園を目指すことにした。

その公園は、町の中にそびえ立っている丘の頂上にあった。何とかそこまで登った三人は、その広さと美しさに感動した。

「テント張っていいかどうか、管理人に聞いてみよう。」

自転車を止めると、三人は管理人室らしいところへ歩いていった。

ところが、いくらノックしても返事がない。まわりの景色はしだいに暗くなっていく。

「しょうがない。勝手に張っちゃおう。」

そう決断して三人は場所を探し始めた。奥の方に行くと、ベンチがたくさん並べてあるところがあり、その近くにテントを張れるスペースがあった。

「ここがいいね。」

クマちゃんが言う。

と、その時、何者かの気配を三人は感じた。どうやらベンチに誰かがいるようである。

三人は恐る恐る近づいた・・・・・・。

 

そこには一人の男が寝ていた。酔っぱらっているのかと思ったが、側にコーラの缶が置いてあったので、ちょっと逆を疲れた。が、服装を見ると、いかにも管理人らしい姿だったので、エイジは恐る恐る尋ねる。

「すみません。ここにテント張ってもいいですか。」

男は目覚めた。

「あ〜?」

あくびだかなんだかわからないような声を発して、男は三人を見た。

「ここに、テントを張ろうと思ってるんですけど・・・・。」

男は寝たまま答えた。

「う〜ん。あっちの入り口の方にある、砂場の方ならいいんじゃねえか。」

「あっちの砂場の方ですか。」

「うん。」

男は伸びをして起きあがった。一見、汚い格好をしていたが、何か人生を悟っているようなおじさんだった。

「ありがとうございました。」

三人は立ち去ると、言われた砂場にやってきた。

「それじゃあテントを張りましょう。」

クマちゃんとオメガはテントを張り始める。エイジは食事の用意を始めた。

この時間だからだろうか。公園には三人以外に人はいなかった。そのおかげで、三人は人目を気にせずにキャンプ活動をすることができた。

と、しばらくして、さっきのおじさんがやってくる。おじさんはエイジが食事の用意をするのを、不思議そうに眺めていた。

「このメシは、どっかで買ってきたんか?。」

「はい、そうです。」

「ほう、便利なものがあるなあ、ハッハッハッ。」

おじさんは三人に陽気に話しかけてきた。公園でテントを張るやつなど、珍しいので無理もない。

でも、食事の用意をしているのを真剣に見ている姿は、子供みたいで好感がもてた。

しばらくすると、突然おじさんが言った。

「おっ、黒が来たぞ。」

おじさんが指さす方向を見ると、小さな黒ネコがこちらの様子をうかがっているのが見えた。よせばいいのに、オメガは黒ネコの方に静かに近寄っていく。黒ネコは本当にまだ子供で、

「ミャー。」

という小さな泣き声がとてもかわいかった。

オメガはテレパシーで意思の伝達をはかったがダメだった。すると、何を思ったのか、オメガは自転車の方に戻り、カロリーメイトを取り出すと、再びネコの方にやってくる。

「ほら食え。」

オメガは、カロリーメイト<フルーツ味>を細かく切って黒ネコにあげた。黒ネコは飛びついたが、しばらくすると捨てた。

「てめぇー、カロリーメイトは高いんだぞっ」

オメガは怒ってカロリーメイトをもう一度投げたが、黒ネコは今度は見向きもしなかった。

「向こうでカレーを作ってるから、食いたかったら来い。」

そういって結局、オメガはみんなの方へ戻っていった。

食事の用意は進んでいた。今日はエイジが火を扱っていたが、実に見事な腕前だ。

「へへっ、大したもんだ。」

とおじさんも言っていた。

あんまり長い間おじさんがいるので、オメガとクマちゃんは、

「このおっさん。もしかしたら一緒にメシを食いたいのかもしれない。」

と考えて心配になった。しかし食事ができ上がると、おじさんは、

「よし。そんじゃあオレも、メシでもくらわぁーら。」

と意味不明の言葉を残して去っていった。

さらばおじさん。あなたのことは忘れない・・・・・・・・・・・。

 

写真4:丘の上の公園

二日目に泊まった公園である。一見、普通の公園のように見えるが、実際は左側に広場やゲートボール場があって、とても広々とした所である。なお、テントの向こうに何かが見えるが、気にしてはいけない。

カレーライスとあさげ。それが今晩のメニューだった。疲れていたのでとてもうまい。特にあさげの味は忘れられない。

三人が食べ終わって後片づけを始めた頃、時々空が光ることがあった。

「なんだろう。雷かな。」

クマちゃんが言う。だが、それにしては音がしない。

「いや、あれは星の光だろう。」

オメガが言う。と、すかさずエイジが、

「こいつバカじゃねぇーの。」

と言った。しかしその後が悪かった。

「あれはUFOの光だー!。」

沈黙。オメガは旅行記に絶対これを書こうと決めた。

その光の正体は、しばらくして明らかになった。向こうの方で花火が上がったからだ。

「おっ花火だ!もっと近くにいこうぜ!。」

三人は公園の奥の方へ歩いていく。

「おおーーっ。」

そこは非常に見晴らしのいい所だった。丘の頂上なので町の夜景が美しい。しかし、そんな事はエイジとオメガにはどうでもいいことだった。とにかく次の花火が上がるのを期待する。

だが、それから十分経っても花火は上がらない。しびれを切らしたエイジは、オメガに言った。

「オメガ、面白い遊びを考えた。やろうぜ!その名も『必殺コンバットゲーム』!。

あぜんとしているオメガをよそに、エイジは続ける。

「この暗闇の中を二人が散らばって、気付かれずに背後をとった方が勝ち!。」

しかしオメガはやらなかった。一つはエイジを馬鹿にしていたからであったが、実は暗闇がちょっと恐かったからでもあった。

コンバットゲームの野望をくじかれたエイジが、また変なことを言う。

「クマちゃんたち、しょん便する時、ぼうこうが痛くならなかった?。」

またバカなこと言ってるぜ、と思いつつオメガが答える。

「いや、別に・・・・。」

するとエイジが解説し始めた。

「なんか自転車に乗ってて圧迫されたみたいで、しょん便すると痛えんだよーっ。」

オメガはあきれて言う。

「おめぇ、UFOだとかアホなことばっかり言ってるからじゃねぇの?。」

すると、どこでどうつながったのか、エイジがまたもやわけのわからん事を言い出した。

「そうなんだよ。オレは宇宙人に、知らない間にぼうこうを鉄に変えられたんだよ。」

そういう二人についていけないクマちゃんは、仕方がないから夜景の写真を撮っていた。

その後、三十分ほど待っても花火が上がらないので、三人はテントの方へ戻った。

 

星空の下で、三人はテントにも入らずに話し合っていた。今日の朝からここに来るまでの話で始まったのだが、ふと、あの甲府の女の人の話が出た。

「あの人なかなかきれいだったよね。」

クマちゃんが言う。オメガはそれを聞いて非常にうれしく思った。そして言う。

「やっぱり。!?おれもそう思ったんだぜ。でも二人に反対されると思って言わなかったんだよ。」

するとエイジが言った。

「何言ってんだよー。クマちゃんなんて、いきなり見てすぐに『エイジ、あの人なかなか美人だね』って言ってたぜー。」

そうだったのか、とオメガは思った。まるで自分の恋人が誉められたような気がした。

と、クマちゃんが言った。

「でも見てすぐに、オメガだーって思ったよー。だって、昨日言ってた理想のタイプにピッタリだったじゃん。」

「なあー。」

エイジも言う。オメガはますますうれしくなった。オレの目に狂いはなかった。やはり彼女が自分の理想だったのだ、と。オメガは何かがフッきれたような気がした。かえってこのように言われると、ますますあの女の人に会いたくなる。

「オレは来年もう一度あそこへ行く!。」

さて、その後も会話は続いた。エイジの過去、クマちゃんの過去。そして、この夜の最大の話題、オメガの過去へと話が移る。特に今まで明かされなかったオメガの過去は、二人の興味を引いたらしかった。

会話が下火になり始めた頃、

「ヒューーーッ、パンパンパン!。」

と今頃になって花火が上がった。エイジが言う。

「何だよー、予算がないんじゃねぇの。」

「ハハハ、ひでぇー。」

三人はさんざん花火をけなした。その後も十分おきぐらいに花火が上がったが、どれも変化がなく、まさに予算を感じさせるものがあった。

ところで、この公園は決まった時間になると電灯がつく、と例のおじさんは言っていた。だが、九時になってもまだ電灯がつかない。

「やられた・・・・。」

と三人は思った。暗闇の中を、懐中電灯だけで進まなくてはならないとは・・・・・・。

町を見下ろす丘の上で、三人の旅人は眠りについた。

花火によって起こされた星たちが、三人のテントに暖かい光を投げかけていた。・・・・・・。

 

 

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「二本のラムネ」

自転車旅行記

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