第九章 究極のメニュー 

 

ラムネ屋を去ってすぐに、道が前方で大きくカーブし、登りになっていくのが見えた。疲れていた三人は歩いていくことに決めたが、

「あの登り坂の前まで乗ろう。」

ということになって、再び自転車に乗る。この時、オメガは少し嫌な予感がしていた。

200メートルほど行くと、その登り坂の前にやってきた。が、さっき見た時よりも坂が急に見えない。先頭を走っていたクマちゃんが『どうする?』という感じで振り向く。と、いきなりエイジが『行ける!』のサインを送った。

ガーーン、なんという事を、とオメガは思ったがもう遅い。結局、力の限り坂を登った。

一度登り坂をクリアしてしまうと、クマちゃんとエイジは容赦しなくなる。現れる坂を次々と克服し、どんどん先へ行ってしまった。

「オレは約束を守るぜ!。」

そう言って自転車を降り、一人で歩いていくオメガ。だが、この孤独感は耐えられないものがあった。

エンジンをつけた車が通り過ぎていく。冷たい高原の風も、今は吹いてくれない。時々、一人寂しく自転車に乗ってはみるものの、一分も行かないうちにダウン。道が二つに分かれていても、教えてくれる者はいない。はっきり言って泣き出しそうだった。

道はどんどん続く。7キロと言っていたわりには、もう皇居2周分ぐらいは進んだような気がしてくる。それから何時間進んだだろうか(実際は1時間も走っていない)。突然、今まで見たことのないような急な登り坂が現れた。しかし今まで歩いてきたオメガにとっては、別にどうでもいいことで、ひたすら自転車を押して歩く。

と、その時。オメガは信じられないものを見た。

「あ、あれは!?。」

登り坂の手前に、見覚えのある自転車が置いてあったのだ。荷台には、忘れもしない、黄色と緑のアクエリアスレモンのようなテントマットがくくりつけられている。

「エイジのだ・・・・・。」

オメガはすぐに近づいた。だが、・・・・・・・・エイジの姿はどこにもない。ただ自転車だけが、炎天下に放棄されているのだ。

クマちゃんの自転車もあれば、オメガはここで待っただろう。しかし、クマちゃんは、もうひょっとしたら野辺山に着いてるかもしれない。オメガはつぶやいた。

「弱肉強食、それはお前たちが教えてくれた言葉だぜ。」

そうして、オメガは歩いて坂を登っていくのだった。

 

巨大な登り坂を登り終わると、突如ミーハーな雰囲気が漂った。ここが、都会の女たちの集まる清里という所らしい。そう言えばクマちゃんが言っていた。

「清里に止まるのはよそう。あそこは女ばっかりだから、この格好じゃ恥ずかしい。」

そのクマちゃんが、前方のセブンイレブンで休んでいるのをオメガは見つけた。

「遅れてすまん。」

わざと疲れたフリをして、自転車を止めるオメガ。エイジの事を聞かれたので、ついさっき自転車だけ置いてあったことを話した。

「おなかが痛いって言ってたからなあ。」

二人は店の中に入らず、そこにしゃがみこんだ。

それから一分もしないうちにエイジが現れる。

「どうした?。」

「いや、腹が痛くなったから、途中で近くの店に入って便所を借りた。」

かわいそうなエイジ。だが野辺山まではあと2キロもないだろう。がんばるんだ!

しばらく休憩をとって、三人は体力を回復させる。

「じゃ、行きますか。」

クマちゃんのいつもの合図で、三人は今度こそ、自転車を押して歩いていった。

それからの道のりは、昼食を食べた以外、特に何もなかった。強いて言えば、オメガが踏みきりで、電車の中の子供たちにピースをされたことだった。

そして、ついに今回の旅の目的地、野辺山に着いた。

うまいものが食える!と、三人は思ったに違いない。近くに自転車を止めると、三人はまず牛乳を探した。クマちゃんはその他に、自分の理想の人を探した。しかし、第一条件の牛乳を飲んでる女の子がいない。クマちゃんの望みは早くも崩れ去った。

牛乳を売っている店を見つけ、三人は牛乳を買う。ちょっとぬるかったが、味は濃くておいしかった。

その次に、オメガはじゃがバター(じゃがいも&バター)に、クマちゃんとエイジはソフトクリームに目を付けた。

「オレはじゃがバターを食う!。」

「そんじゃあオレたちはソフトクリーム!。」

三人はそれぞれ目当てのものを買うと、互いに見せ合って食った。自分のがおいしいということを、いかに見せつけるかが勝負だった。が、二対一でオメガの方がやや不利だった。

じゃがバターのうまさに自信のあったオメガは、二人が、「ちょっとちょうだい。」

と言った時、気前よく分けてあげた。

「うん、これもおいしい。」

エイジが言う。

「そうだろ!?じゃあ、お前のソフトクリームも・・・・・・。」

そう言って、オメガは自分の甘さに気付いた。

なんとこの二人、既にソフトクリームを食べ終わっているではないか。さらにエイジが追い打ちをかける。

「ソフトクリームはうまいぜー。まさに、ここの牛乳で作ったって感じ。一口なめると『オオーッ』ってなるぜ!。」

ついに誘惑に負けて、オメガはソフトクリームを買った。

さて、その後いろいろと見てまわったが、これといった物はなかった。オメガとエイジはハガキを買って、オメガは友達に、エイジは・・・・・・・・・・・・エイジは?・・・・・・・・まあ、とにかくハガキを買ったのだった。クマちゃんは理想の人が見つからなくて、しょんぼりしている。牛乳を飲んでいるという条件をなくしてあげたが、それでも見つからなかった。

時刻は一時をまわった。三人は気を取り直し、早く遊ぶため、テントを張る場所を探すことにする。

三人はしばらくして田んぼに続く道を見つけ、それに沿って進んでいった・・・・・・。

 

見渡すところ、田んぼや畑ばかり。そんな中を三人は進んでいく。しかし、いつになっても田んぼ帝国から出られない。なぜか同じ所をグルグル回っているような気がした。

三人は川を探していた。一泊目のように川の側にテントを張って、残りの時間を川で遊ぶという風にしたかった。だが、川すらない。あってもドブ川のようなものばかり。

「おかしいなあ。」

クマちゃんは少し不安になった。しばらく行くと三人は牧場に出た。と言っても、子供たちの遊び場などもあり、一種の観光地だった。そこにはキャンプ場がある事もわかったので、三人は中へ入って自転車を止める。

「キャンプ場を借りれるか聞いてこよう。」

三人は牧場の中心にある、変なウエスタンの店に入った。

「すみません。キャンプ場借りたいんですけど。」

クマちゃんが言った。受付のお姉さんたちが言う。

「ああ、一人300円になりますけど。」

少し離れていたエイジとオメガには、それがなぜか2000円と聞こえた。さらにクマちゃんが指で「3」と示しているのでアセリまくった。

「さ・・・・3000円!?。」

「ちがう、300円!。」

結局、三人はキャンプ場を借りることにした。

キャンプ場に入ると、そこは林の中だった。さすがに時間が時間だけに、テントを張っている人はまだいない。三人は調べまわった結果、入口より少し離れた場所にテントを張ることにした。

さっき受付のお姉さんに聞いたところ、この辺に適当な川はないと言われたので、三人はこれから何をしようか考えた。午前中しか走っていないのに一日中走ったような気がして、なんだか寝たくなったりした。が、それにはまだ明るすぎる。

テントを張り終えると、ひとまず三人は牧場の方へ向かった。

 

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自転車旅行記

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